2016-05-13

学歴フィルターを使うこと自体、企業に責任はない。

採用視点シリーズ。学歴フィルターについて、ちょうど被採用側なので、思ったことを書いていきます。タイトルもあえて挑戦的にしました。批判が殺到しそうなので、最後まで記事を読んでくれた上で、批判してくさるとうれしいです。





学歴と問題解決能力・コミュニケーション能力は相関する


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(この記事を読んでいる人の中には、今まさに学歴フィルターに引っかかり、自分の未来を制限されている人がいることも承知のうえで、誤解を恐れずに書いていきます。もう一度書きますが、批判される場合は、最後まで読んだうえでしてください。)

さて、実際選考を受けていて、やはり学歴と能力は相関すると思いました。学歴が高い人ほど、GDで物事を本質的にみたり、構造化する能力が高いなあと感じました。

たとえば、「人をやる気にさせるにはどうすればいいのか」という問いに対して、「お金が少ないから給料を上げればよい」という短絡的な思考をするような人と、まずその構造を分解して、原因を考える人がいると思うんですけど、圧倒的に学歴が高い人ほど後者のような思考ができる人が多いんですよね。実感値として。学歴と能力はある程度相関はあると思うんですよね。

ただし、高学歴・低学歴ともに外れ値がある



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ただ、誤解しないでほしいのが、「低学歴は無能」と言っているわけではありません。そういう偏った一般化は僕も大嫌いだし、それこそ無能な見方だと思います。

言いたいのは、実際、すべてにおいて、「学歴が高い人が能力が高い」、もしくは「学歴が低い人は能力が低い」というわけではありません。外れ値もあると思います。下の図でいえば、赤い点です。

例えば、今まで仲良くしている人で、学生時代に本を出しているような人で心から尊敬している友人がいますが、別に学歴がそんなに高くない人でも、圧倒的に行動力もあり、思考力もあり、強いビジョンを持っています。心から尊敬している人の一人です。逆にず~と内部エスカレーターの温室環境で何も考えずに就活に挑むような慶応生も見てきました。

高学歴にも、低学歴にも同じように外れ値があると思います。




でももし自分が人事担当者だったら・・・・

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さて、企業のミッションで、「できるだけ優秀な人材を、100名コストをかけずに集めてこい!」というミッションのもとで僕が人事やってたとしましょう。

もし採用者だったら、採用コストを考えたときに、安く、早く、確実に優秀な人を手っ取り早く選ぶのであるならば、学歴フィルターだとと思います。

確かに、リスクとして上図左中央のような、「低学歴だけど非常に高い能力を持っている人」を間違えてフィルタリングしてしまう可能性はありますが、より安く、早く、確実に優秀な人材を獲得するには、学歴フィルターが手っ取り早いわけです

なんせもれなく外れ値のような人を採用するメリットより、一人ひとり全員面接することなんてコスト面のほうが大きいと思うんですよね。手っ取り早く、能力がある人を選ぶためには、母集団形成の段階で、高学歴の人を選ぶのは非常に合理的だと思います。

学歴フィルターの言説


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さて、それを踏まえて、一般的な学歴フィルターの言説を最初に紹介した後に、それに対する別の視点をご紹介したいと思います。まず、一般的な言説から。

「卑怯な」学歴フィルターという言説

「かねてより就活生の間で都市伝説のように噂されてきた学歴フィルターの存在がついに確認された。勇気ある就活生がTwitterで暴露した。

現在、就活まっただ中のSさんはずっとおかしいと思っていた。セミナーの予約が一向にできないのだ。そして学歴フィルターに引っかかっているのではないかと疑い、ある実験を行った結果、企業の卑怯すぎる採用手法が明らかになった。」


さて、つい最近(というか去年)ある記事がありました。ゆうちょ銀行が学歴フィルターを使って採用をしていたことが、Twitterを通して明らかになったという内容でした。かいつまんでいうと、日東駒専で登録したアカウントで説明会を予約しようとしたら満席だったけど、東大にしたら全部空席だったというやつです。


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で、これが日東駒専アカウントでログインしたもの。


で、これが東大アカウント

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その記事の最後には、こう書いてありました。

表向きはいい顔をしておいて、裏で卑怯なことをしている会社は多い。今回の不祥事、ゆうちょ銀行の人事部は反省してしっかりと責任をとるべきではないだろうか。

「学歴フィルターは、公表したらよい」


さて、この一連の事件に対して、言及した、Hiroshi Yamaguchiさんは、「学歴フィルターは公表したらよい!」と主張しています。

要は、業界研究セミナーと称する事実上の採用活動イベントへの参加申し込み枠が、学生の在籍大学によって操作されており、「日東駒専」で登録したアカウントでは満席となっていたセミナーが「東京大学」で登録すると参加可能になっていた、ということらしい。
で、関心を惹きやすい話題だけに案の定いろいろと議論になっているようだが、少し話がずれているように思うので手短に。

この件では、いわゆる「識者」の皆様の間では、どうも「しかたないんじゃないの?」に近い方の意見を多くお見受けするように思う。ざっくりまとめると、「まあ学歴って、ある程度能力とリンクしてるし、たくさん応募があってさばききれないから絞り込もうとしてるんだろうし」みたいなご意見、「そんな文句いう前に自分で工夫しろ努力しろ、逆転する方法だってあるし」みたいなご意見などを見かけた。
ごもっとも。
学歴が必ずしも就職後の能力を保証しないとしても、なんとなくそういう傾向はあるだろう、というのは少なくとも個人的感想レベルでは納得感がある。グーグルでは「学歴は関係ない」としていて、実際「グーグルの社員の半数は大学の学位を持っていない」のだそうだが、それはたぶんいろいろと事情がちがうのではないか(才能がありすぎて大学の枠にはまりきらなかった、みたいな話がけっこうありそうな気がする。知らんけど)。
企業が採用において能力ある学生を採用したいと思うのは当然で、とはいえ能力なるものを見極めることは実際にはなかなか困難(認めたくないだろうけど)な状況では、出身大学は有力な指標になるだろう。めんどくさい勉強をこなす力はめんどくさい仕事をこなす力と似ていそうだし、同窓生ネットワークでいろいろ仕事もとってきてくれそうだし。じっくり人の能力を見極めたくてもそんなに時間はとれないし、もし絞り込むならそりゃ有力大学にしたいだろう。
そもそも、どんな人を採用するかについて、企業は選択権を持っている。公平な機会を与えるべきという理屈は、性別(と、あと身体障害についてもそうかもしれない)に関してはうるさくいわれるが、能力に関していう人はほとんどいない。能力は本人の努力次第だという理屈だろう。それが実際は必ずしもそうではないということはちょっとものを知ってる人ならもれなくご存じのことだろうが、それはなぜかいわない約束になっている。
実際は学歴が採用後の能力と関係ないとしても、実際には能力のない高学歴の学生を採用するのは企業の自由だ。そうやってゆうちょ銀行以外の有力企業が「学歴フィルター」を採用して実際には能力のない高学歴の学生をたくさん採用すれば、それ以外の企業は実際には能力のある、必ずしも高学歴ではない学生を採用できるわけで、損得はないだろう。
というわけで、企業が学歴である程度絞り込むのはやむを得ないという意見に対して、基本的に異論はないわけだが、しかしちょっと待て。
問題はそこではない。
もともとこのきっかけを作った学生(本当に学生なのかどうかはわからないが)は、学歴フィルターそのものに対して怒ったのだろうか。もしゆうちょ銀行が、「セミナー枠は出身大学ごとに設定しています」としていたらどうだったろう。もっとはっきり「有力大学出身者を優先して採用します」と書いていたらどうだったろう。もしそんなことをしたら、世間的にはそれなりに問題になったかもしれないが、当の学生にとっては、ひょっとしたらむしろありがたいのではないか。無駄な努力をする必要がないからだ。
ということは、ゆうちょ銀行が実際に上記のようなことをやっていたのだとすると、それは自らが行っている、社会的に批判を浴びるかもしれない行為を隠蔽するためということになろう。それこそが批判されるべき点ではないか。「学歴は関係ありません」という「ええかっこしい」をして、その実、裏で操作しているのだとすれば、それは「年齢不問」といいながら40歳以上は採らないとか、「女性も活躍できる職場」とかいいながら実際には女性はほとんど補助職とか、そういう類の行為となんら変わるところがない。上記の通り、年齢や性別と比べて能力による「差別」はあまり社会的批判を浴びないようだが、だからといって隠していいということにはならない。もちろん、社会的批判を浴びると嫌だから隠すというのも(実際にやっているのなら)卑怯だ。
というわけで、暴論めくが、強引に主張しておく。「学歴フィルター」を設けるなら、企業はその旨と、実際にどんな「フィルター」を設けているかを公表すべきだ(ぱっと見たところ、日本郵政グループの採用ページには「学歴フィルター」の存在を伺わせる説明はない)。「当社の社員を調査した結果、学歴と業務上のパフォーマンスには関係があるので、有力大学出身者を優先します」でも、「社長の出身大学の学生は優遇」でも、なんとでも決めて公表すればよい。各大学ごとの応募件数と採用人数の実績も公表するとよりわかりやすい。就活サイトあたりが代行して公表してくれるとさらに便利だ。
もし隠しておきたいと思うなら、そんなことはやるべきではない。
(引用元:『学歴フィルターは公表したらよい』)

既存の議論の整理


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さて、議論をまとめると、こうなります。

①学歴で雇用差別あるのはおかしいじゃん!(ゆうちょ銀行の件)
②いや、学歴で採用するのは企業の勝手で、問題は「学歴で採用している」って書いてないことじゃね?(Yamaguchiさんの件)

って感じだと思うんですけど、自分の中ではどうも腑に落ちない部分が大きいので、また別の視点で学歴フィルターの問題について、つらつらと。

学歴フィルターの切り口


まだほかにも切り口があると思うので、さきほどの議論に二つ追加して、そのあとにそれぞれについて僕の意見を書いていきます。



  1. 学歴で雇用差別あるのはおかしいじゃん!(ゆうちょ銀行の件)
  2. いや、学歴で採用するのは企業の勝手で、問題は「学歴で採用している」って書いてないことじゃね?(Yamaguchiさんの件)
  3. 学歴って、環境要因が大きいから、学歴基準の採用って不平等じゃね?(ペアレントクラシー・ハイパーメリトクラシー的な視点)
  4. 大学から頑張った人に機会が与えられないのに、ただ学歴高いだけの無能に機会が与えられるのっておかしくない?(外れ値の対応)

①「学歴で雇用差別あるのはおかしいじゃん!(ゆうちょ銀行の件)」と、②いや、学歴で採用するのは企業の勝手で、問題は「学歴で採用している」って書いてないことじゃね?(Yamaguchiさんの件)に対する意見

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これは、②でYamaguchiさんも言ってると思うんですけど、限定的にはYamaguchiさんの意見に賛成です。理由は2点で、(1)学歴が個人の努力と能力を証明する資格という視点と、(2)雇用は会社の勝手という視点です。

まず(1)学歴が個人の努力と能力を証明する資格という視点。これは大学受験一生懸命勉強してきて、より高い学歴を獲得しているのだから、それ相応の対応がされるのは当たり前じゃない?という話です。

高学歴ほど高い職種についていることは子供のうちからある程度知っているはずですから。もともとの経済的な環境のスタートラインが一緒で、受験勉強という機会が平等に与えられているのだと仮定して、努力と能力の結果で職業選択の格差が生まれているのであれば、僕自身別に公正な選抜だと思います。努力してきた人が報われるのだから、よっぽど貴族政治なんかよりも良いわけです。

(2)雇用は会社の勝手という視点。これも、普通だと思っていて、優秀な人材を確保するために、外れ値があるとしても、学歴で選抜するのは合理的な判断だと思います。そして、もちろんこの雇用の問題は、企業の責任ではないと思っています。

③学歴って、環境要因が大きいから、学歴基準の採用って不平等じゃね?(ペアレントクラシー・ハイパーメリトクラシー的な視点)

限定的と書きましたが、もし、この学歴獲得までのスタートラインが一緒であるならば(メリトクラシー的であるならば)問題ないと思いますが、逆に差があるのであれば、これに関しては学歴による選抜には問題があると思います。

ICU生の文化資本について前記事で書きましたが、学歴に環境要因が大きく作用しているのであれば、学歴による選抜は不平等だということができます。別の言葉に直せば、経済的、文化的に立っているスタートライン違う中で「学歴」というゴールに向かって競争しているのであれば、その競争は不正だということです。

教育社会学的に、スタートラインが平等な選抜とは、メリトクラシー、つまり「努力と能力による選抜」です。すっごくかいつまんで説明すると、こうなります。(トリビアみたいな感じで。)

①もしすべての人に同じ「学校」という「努力」する機会が平等に提供されてたらさー(機会の平等)、その後生まれる能力の差(=結果の不平等)って納得できるよね~(正当化)

教育社会学的に、スタートラインが不平等な選抜とは、ペアレントクラシー。地位って「親の教育期待」と「所得」によって決まるってやつです。

かいつまんで言うと、「でも、正直こんな平等に教育機会なんて与えられていなくて、金持ちの親御さんが子どもに高い教育期待とお金つぎ込んでるから、全然平等じゃないよね~、結局仕事なんて親の金で決まるっしょ~」ということ。

もうそれこそこのブログで研究しつくしてきたけど、やっぱり高学歴教育費くっそ高いICUなんて格差の縮図で、こんなデータ出てますからね。どんだけ私立中学校出身者多いんだっていう。




で、主張なんですけど、もともと潜在能力があったのに、経済的事情で学歴の低い大学にしか入れなかった(もしくはそもそも高卒になってしまった)人に関しては、学歴フィルターは問題ありだと思います。
ただし、これは企業の問題ではなく、あくまで教育の機会均等の問題だと思っています。だから企業のせいにするのは本質的ではなく、本質的な問題は、あくまでこの格差を放置している国のシステムの問題だと思っております。
このへんのテーマに興味がある場合は、ぜひ教育社会学の大御所、本田由紀先生の本をいろいろ読んでみてください。

④大学から頑張った人に機会が与えられないのに、ただ学歴高いだけの無能に機会が与えられるのっておかしくない?(外れ値の対応)


これに関しても意見は多々あると思いますが、要は外れ値の対応ですよね。


(1)「大学で頑張った人に機会が与えられないのはおかしい」という意見に対して。もし僕が人事で、「大学から頑張った人(低学歴かつ能力大)」と「大学前から将来のことを考えて頑張ってきて、さらに大学に入った後も頑張ってきた人(高学歴+能力大)」2名のうちどちらかをとるとしたら、それはおそらく後者を選択すると思います。

これは僕の勝手な類推ですが、出身高校を就職のときに聞かれる理由の一つはこれだと思っています。

(2)「学歴が高いだけの無能に機会が与えられるのはおかしい」という意見に対して。

安心して下さい。そういう人は機会は与えられますが、選考で落ちます。ソースは僕です。



結論


学歴フィルターを使うこと自体、僕は問題だとは思いません。理由は2点。
  • 外れ値があるとしても、学歴=努力と能力の証明になるから
  • 採用担当者の視点に立った時に、きわめて合理的な選択だから
一方で、学歴フィルターについての僕の主張としては、以下1点に集約できます。
  • 教育格差がもたらした学歴格差で雇用が決まるのであるならば、学歴フィルターの是非ではなく、より本質的な教育格差に焦点を向けるべきだ

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